65年前の古くないデザイン 1stズミクロン

2019.06.24

どこもかしこもタピオカを飲むための列で溢れている。まさに、空前のタピオカブーム。長い列をつくっているのは若い子たちが中心だが、おじさんが飲んだってタピオカは美味しい。パンケーキの白熱ぶりも異様だったが、今回のタピオカブームも凄まじいものがある。毎日タピオカを飲まないと、高校生たちは学校で仲間外れにされるのだろうか?若い子たちがブームに流されるのはいいとして、飲食店の節操なさが笑えてくる。ここぞとばかりにタピオカ専門店が出現し、にわか仕込みの怪しいものもあったり、カフェや製菓店などあらゆる店でタピオカドリンクを販売している。何食わぬ顔でブームに乗っかっているが、経営者たちには食へのこだわりとかポリシーとかそういったものは少しもないのだろうか?疑問である。

子供たちに「人に流されるな」というのは酷な話だ。みんながやってるから、という理由で様々な過ちを犯す可能性があるとしても、マイノリティでいることはそれなりに根性がいる。多数の価値観から孤立するのは、子供にはキツすぎる。しかし大人たちが自分で考えることを停止して、多数の価値観に寄り添って生きていたら、気持ちのいい世の中にはならないだろう。金が稼げれば何でもいいじゃん、という経済優先の考え方もそうだ。金を稼ぐことは必要だが「大切」ではない。

若者たちのブームとそれに乗っかる脳みそにシワのない大人たちを尻目に、写真を愛するおじさんは65年ほど前につくられた古いレンズを手に入れた。Leica Summicron 50mm F2.0 1st Collapsibleである。沈胴式のこのレンズは、オールドレンズでは人気の高いライカの定番で、沈胴タイプをコレクションしている人ならほぼ持っているレンズではないだろうか。画角は50mm、色はシルバー、ほどよい重さ、コンパクトさ、ピント面のシャープさ、オールドらしい欠点、そんな条件で絞っていったらこのレンズにたどり着いた。スーパータクマー55mmを使っていて、しっかり補正された完成度の高い画質よりも「欠落のある描写」を自分が好むことを知ってしまったので、ズミクロンの中でも初代と呼ばれるこのレンズの方が自分には合うだろうと。そして、この沈胴ズミクロンには素晴らしい魅力がある。それはデザインである。レンズとカメラの接合部分が斜めにカットされたデザインで、この絶妙なラインがレンズとボディの絶妙な一体感を生んでいる。僕が持っているM Typ240に初めてつけたとき、この一体感のあるデザインに頭がクラクラした。銀色の鉄の物体がまるで張り付くようにカメラボディに固定される。素晴らしい!センスと美学に裏打ちされた素晴らしいデザインだ。設計者に食事でもご馳走したい。非常にマニアックな魅力ではあるし、タピオカ族には「キモ!」とか「死ね!」とか言われそうだが、経済だけを優先せず、人が一生懸命考えてつくられたものは美しい。

できるだけいい状態で使いたいと思い、7万円ほどで買ったものを山崎光学写真レンズ研究所でメンテナンスしてもらった。買ったものはズミクロンと呼べないほどひどい状態で、使いものになるかどうか不安だったが、後部を構成するレンズ3枚を研磨しコーティングしてもらうことで、本来の状態に戻してもらった。感度、F値、シャッタースピード、色温度、すべて同じ条件で撮ったものを比較すると、メンテナンスによってかなり改善されたことがわかる。現役を退いてボロボロになった65年前のレンズを、山崎さんという技術職人に叩き起こしてもらったわけだ。メンテナンスは約1ヶ月半、費用は3万円ほどだった。レンズ職人恐るべし。

LEICA M Typ240 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

LEICA M Typ240 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

LEICA M Typ240 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

LEICA M Typ240 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

LEICA M Typ240 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

LEICA M Typ240 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

LEICA M Typ240 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

まるで顕微鏡のようなルックスのズミクロン。使ってみると思いのほか操作性がいい。ピントを合わせるレバーの他にギザギザのエッジがついていて、ローアングルやじっくりピントを追いたいときに役に立つ。画角の中央から四隅に行くにしたがって流れたりボヤけたりと破綻するのは他のオールドレンズと同じ。パープルフリンジも盛大に出る。ズミクロンというと揺るぎない優等生というイメージだが、初代となると若干くせがあって言うことを聞いてくれない時がある。現行レンズと比べてノイズも出やすい。その一方で光の角度などの条件が合えば、開放でもピント面は破綻なくシャープに描写される。スーパータクマー55mmのようなオールド感を期待していたが、良くも悪くもタクマーより「荒い」印象を受ける。そこはまぁ、骨董レンズなので仕方がない。

LEICA M Typ240 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

LEICA M Typ240 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

ライカMで撮る場合、最短撮影距離は1mと非常に長い。しかし、クローズアップレンズとビューファインダーを使えばレンズ端から30cmまで寄ることができる。この顕微鏡のような金属のレンズでマクロ撮影をするのは、なかなか楽しい。

LEICA M Typ240 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

LEICA M Typ240 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

LEICA M Typ240 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

LEICA M Typ240 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

LEICA M Typ240 / LEICA Summicron 50mm F2.0 Collapsible

しかし、見れば見るほど、惚れ惚れするデザインのレンズである。妻はこのレンズを見て新しいデザインかと思ったと言ったがまさにその通りで、写真機材についてあまり知識のない人が見たら最近発売された斬新なデザインに見えるかもしれない。それは、新しいとか古いとかを超える魅力的な形状がそこにあるからだ。レンズは金を払えば容易く手に入る。しかし、このレンズのデザインのような品質の高いクリエイティブを、タピオカブームに盲目に追従してしまう飲食業界の人々は生涯理解することはできないだろう。